2006年11月12日日曜日
---奇妙なお話し3--- [ショートショート]
『一瞬の出来事』
その頃、遠距離出張が多く現地でのホテル宿泊が普通になっていた。
大抵は大きな町の中心街にあるビジネスホテルに泊まるのだが、今回の仕事はめずらしく観光地だったことで取引先の担当者がホテル旅館を用意していてくれたのだ。
こういったことはめずらしいことであり、さらには今晩そのホテルで立場は逆なのだが接待を受ける事になっているようだ。
たまには美味しいこともあって罰は当たらないだろう。
その日の商談はトントン拍子に進み、久しぶり大きな受注が見込まれた。
仕事が終わってからは取引先の案内が付いてくれて名勝巡りまでさせてもらった。
その晩多少憂かれ気分でいた私は、今回の出張で得た成果に酔っていたことも手伝ってお銚子の本数も増えていた。
場は午後九時頃でお開きとなり、私はお湯をつかりに行った。
お湯とお酒の背で火照った体を冷ますために、部屋の窓を全開にして浴衣の胸元をはだけると団扇のようにぱたぱた扇いだ。
窓越しから見えるのは旅館街に軒を連ねる土産物屋、おでんの屋台、最近では珍しくなくなったがディスコの看板がカラフルに光っている。
ホテルの真下は道路になっており、浴衣を着た若い女性達がカラコロ音を鳴らして歩いている。
その時全く予期せぬ事が目の前で起こったのだ。
目の前を何かが通り過ぎた。
上から下に落ちていったようであった。
その後「きゃーっ」という悲鳴と共に何人かの騒ぐ声が聞こえてきた。
それはほんの瞬間の出来事であったのでよく確認はできなかったが、今一度そのコンマ数秒の間に起こった事を頭の中で再生してみた。
上から下へ落ちていった物は人間で、性別は女だった。
何故そこまで分かったかって?・・・・落ちていく間お互いに目が合ったからだ。
どんな表情だったかって?・・・・二度と思い出したくないんだ、勘弁してくれ。
-----おわり---- 1993年創作

