2006年11月23日木曜日
---奇妙なお話し4--- [ショートショート]
『初めてのキャンプで』 その一
私は特別そういった能力が強いわけではないし、今までもその類の体験は皆無と言ってもよいくらいだ。
自ら体験を望んでいるわけではないが興味がないこともない。
巷では特殊な能力を売り物に盛んにTV出演するおばさんがいたり、死後の世界を体験した!?という人が分厚い単行本を出版したりで、日本全国がオカルトブームに巻き込まれているかのごとく様々な人たちの体験談があちらこちらで取り沙汰されている。
まあどの話しもありきたりな物ばかりで改めて興味を示すような内容ではないのだが、ただそのことが当事者にとっては何物にも増して恐怖心を与えているという事だけは否めないのである。
その話しが本当であれば。
実際私にもその体験をするチャンスが回ってきた・・・・幸か不幸か。
今はアウトドアライフが大流行で私も例に漏れず、なけなしの小遣いをはたいてキャンプ用品を買いあさっていた。
女房は「また道具ばかり集めてキャンプなんか行かないんじゃない?」と言っていたがどっこい、もうすでに計画は立てていたのだ。
ただ女房のお腹には2人目の子が居るため、今回は幼稚園に通う息子と2人だけで行くことにした。
自宅からさほど離れていない場所を選んだのだが、到着したところは山深い自然の美しい場所であった。
私の家はそんなに僻地だったのか・・・・。
さっそく2人で・・・・(といっても息子は殆ど手伝わなかったが)テントの設営にとりかかった。
程なくビニールシートはテントらしさを見せ始め、十五分もかからず完成した。
息子はすかさずテントの中に入ってはしゃいでいる。
「お父さんすごいねー。お父さん何でも出来るねー。」
今のテントはど素人でも簡単に組み立てられるのだが・・・・。
息子と2人だけの住まいはそれらしく整い、私はビール、息子はオレンジジュースで乾杯!
テントサイトは河原であり、テントのすぐ後ろには小さな川が流れている。
私たち親子は夕食前の散歩にと、河原沿いを探検することにした。
山の中の夕暮れは早いものだ。薄暗くなってきたので息子も少し心細いのか、
「お父さんもうテントにかえろ。」
夕食はキャンプでは定番中の定番であるバーベキューにした。
このキャンプ場はあまりメジャーではなく混雑はしないが、私たちが到着した昼間はデイキャンパー達でにぎやかだったのにその彼らも時間が過ぎる毎に帰って行き、今は場所を隔てて4張りほどのテントが残っているだけである。
すっかり辺りは漆黒の闇と化した。
それぞれのテントには小さな明かりが灯り、時折夕食支度の音と話し声だけがわずかな空気の移動に乗って妙に鮮明に聞こえてくる。
何という鳥なのか「チチチチチ、チチチチチ」と気にならない程度の声で泣いている他は、すぐ後ろを流れる小川のせせらぎだけが時間の経過を僅かに感じさせてくれる。
ランタンの光の揺らめきが息子の顔を照らしている。
お腹もいっぱいになって初めての野外生活の為か、丸かった目が半分に閉じかかっている。
「もう寝たら。」
「うん。」
初めての寝袋に包まれながら嬉しそうに、「おやすみ、お父さん。」
と言ってさらに潜り込んだ。
時計を持っていないので何時か判らないが、未だそう遅い時間にはなっていないはずだ。
その二へ続く

