2006年11月24日金曜日
---奇妙なお話し4--- [ショートショート]
『初めてのキャンプで』 その二
私はまた椅子に腰掛け缶ビールに手を伸ばした。
せせらぎの音が静けさを強調しているのだが、耳を澄ませてしまうと逆にその音だけが気になりうるさく感じるのだ。
けだるさとビールの酔いが重なって、何とも言い様のない感覚が身体を支配している。
いつもはあまり考えたこともないのだが、
"今女房は家で何しているかな。"と思った。
明かりに小さな羽虫が集まっている。
眠気が襲ってきたのはそれからすぐだった。
テントにはいってみると息子は寝袋から半分出て寝ていたので、胸元までかぶせて私もデンと横になった。
それからどのくらいの時間が過ぎたのか、のどの渇きと妙な音で目が覚めた。
水を飲みに行こうとして起きかけたときだった。
「ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ」
という荒々しい音がテントの後ろを言ったり来たりしているのだ。
まさか物とりでは・・・・。
テントの外には炊事用具やらが置きっぱなしになっているので、盗もうと思えば不可能ではない。
私は一瞬身を堅くして足音の主を捕らえようと構えていた。
相変わらず音は小川とテントの間を往復していたが、こちらから正体を見極めるべくバッと外に飛び出てテントの後ろに回った。
「・・・・・・・。」
音の主は何処にも居なかった。
ランタンの明かりをつけると私はテントと小川の間を静かに歩いてみた。
そこには今踏んだばかりの私の足跡が付いているだけであった。
獣か何かが小川の中を走り回ったのだろうか。
辺りは深い闇の中で眠りについている。
何の気配もない。
テーブルの上に置きっぱなしにしてあったペットボトルのジュースをコップに入れて、一気に飲み干した。
渇ききった喉に浸透するような味だった。
なぜか闇の中に一人立っている自分が滑稽に思えてきた。
「俺は何をびびっているんだろう。」
夜中になると昼間の暖かさが嘘のように涼しくなる。
私はテントに戻ると寝袋をかぶった。
しかし今度はなかなか寝付けなくなり、先ほど聞こえた砂利を踏むような音のことを考えてしまう。
どう考えても人間ほどの重さのある生き物としか思えないし、あの音の調子から言えばまさしく人間が行ったり来たりしているような足音だった。
そう考えていると急に恐怖感がわき上がってきて、今にもあの足音がテントに向かってくるように思えて怖くなってきた。
そう思っていた矢先、
「ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ」
またか!
その三へ続く

