2006年11月25日土曜日
---奇妙なお話し4--- [ショートショート]
『初めてのキャンプで』 その三
さっきの音はやはり聞き違いではなかったのだ。
現に今私のいるテントのすぐ外で、何かがうごめいているのだ。
布1枚だけ隔てたすぐ私の頭の先で足音がしているのだ。
そのうち足音はちょうど私の頭のすぐ上で止まった。
恐る恐るそちらの方へ目をやった。
何の音も立てずにお互いの様子を確認しているのだろうか。
周りが暗いのであちらの影は見えない。
テントの隙間からこちらを覗いているかもしれない。
いきなり飛びかかって来そうな息詰まる沈黙が数分続いた。
私はじっとりと粘りつくような汗を出るがままにしておき、ただ目だけを当てのない暗闇に据えたまま見開いていた。
しかしいつまでたっても何事も起きはしなかった。
何故かとても疲れた。
ふと我に返り、息子の方に目をやった。
深く寝袋をかぶって寝ていた・・・・・・!?
いや、起きている!
目だけがこちらを見て笑っているではないか。
私は心臓が止まりそうになった。
その時は反射的にそこから後ろへ飛び退いた。
喉から心臓が飛び出るのではないかと思われるほど驚いたのに、ようく見ると笑って見えたのは勘違いだったとすぐに分かった。
ちょっとした影の悪戯だったのだ。
俺はどうかしている・・・・。
翌朝、どういう訳か私は爽快な気分で起床できた。
夜中の出来事は夢だったのか何か狐に摘まれた感じであった。
もしかして、あれは本当に狐の悪戯だったのかもしれない。
今はそう思う。
山の中にまで人間が侵入してくると平和だった自然環境にも大きく影響が及ぶはずであり、それを阻止しようとする動物の本能は様々な形に変化して人間にメッセージを送ろうとする。
人に化けて出たり、物になって脅かしたり時には人を死に至らしめることさえあるという。
これに関しては人間の勝手な想像でしかないのだが。
いずれにしてもキャンプや登山をする人は、人間の奢りといった不必要な物はかなぐり捨てて自然と一体になって楽しんでいただきたいものだ。
私が火を熾していると息子が目をこすりながら起きてきた。
「起きたか。おはよう!」
「うーん、お父さんおはよう。」
「眠かったらもっと寝ていてもいいんだよ。」
「もう起きるよ。」
「そうか。まだ寒いからここに来てあたりなさい。楽しい夢見られたかい?」
「うん。寝ているときは少し寂しかったけど、お姉ちゃんが遊んでくれてとても楽しかったよ。
でもそのお姉ちゃんのお尻に大きな尻尾が付いていて、ぼくを暖めてくれるんだよ。
とても優しいお姉ちゃんだったよ。」
「・・・・・そうか・・・・、よかったね。うんよかった。」
その時私は、夜中の出来事を誰にも話すまいと心に誓いました。
---おわり--- 1994年創作
このショートショートは実際に息子と行ったキャンプで体験した事です。
今でも息子にはこの事を話していません。
話したらどんな顔するかな (^。^)

