2007年03月21日水曜日
---奇妙なお話し8--- [ショートショート]
『何かがいつも』 その三
側に転がっていた木製の椅子を起こすと、めいめいに座った。
しばらくの沈黙の後、娘が一声を発した。
「私たち遭難したのかしら・・・・ねえお父さん・・・・」
「そうかもしれないね。多分そうだと思う。」
ゆっくりと穏やかに。
私は否定するのはやめて、現実を直視した。
「とにかくこれからどうするかって事よね。」
「そうだ。それを考えよう。」
また暫くだれも口を開かなかった。
必死に何かを見いだそうとしているのか。
それとも疲労困ぱいしているだけなのか、定かではない。
三人とも疲れの極致にあることだけは確かだが、ここで疲れに身を任せてしまうと二度とこの世に戻ってこれなくなるのだ。
家族三人が一緒の境遇に居合わせていることだけが、せめてもの救いだしこの先何があろうと恐くはない。
それが家族なのだから。
小屋の外では乳白色の渦が、妙に澄んだ高い音を鳴らしている。
たまに不規則なノックをしたかと思えば、ぴたっとなんの音もせずまた急にばたばた小屋をふるわす。
それが延々と続くのだ。
一人で居たらきっと変になってしまうに違いない。
「チョコレートがあったわ!」
娘がリュックの中をごそごそ探している。
「まさかおまえの言うとおりになるとは、思わなかったよ。」
「私もたまには役に立つでしょ。」
彼女は明るい顔を作り、私と妻に分けてくれた。
「これを食べれば体が暖まるし、元気になるわよ。」
妻はそんなけなげな娘を見て涙を流している。
このときのチョコレートの味は、一生忘れることはないだろう。
私たち三人は自分たちの置かれている立場を忘れるために、そして眠ってしまわないように学校のこ
と、会社のこと、娘の幼い頃の思い出なんかをそれぞれが話しをした。
暗がりの中でライターをつけて時計を見た。
すでに午後八時半をまわっている。
互いの表情はもう判らないが、妻がときおりまぶたを閉じたままうなだれそうになるので、娘とふたりしてその都度元気づけた。
そんな私たちも疲労の限界まできていたが、誰かが必ず起きていなければそれっきりになってしまうの
だ。
それは三人の死を意味している。
「このままでは余計に疲れがでてしまうから、何かゲームをしようと思うんだがどうだろう。」
「ゲームって?」
「うーんそうだな・・・・そう!この部屋の隅に椅子を置いて、三人それぞれ腰掛ける。一人が誰かにこのリュックを渡すと空いている椅子に座り、渡された人もそのリュックを他の人に渡して空いている椅子に移ると言うことの繰り返しさ。」
「いいんじゃない!目が覚めるかもね。お母さんやってみましょうよ。」
「そうね。それまでに誰か助けに来てくれるかもしれないし・・・。」
私は手探りでリュックの中のローソクを取り出すと、火をつけた。
小屋の中はたちまちオレンジ色の光が広がった。
壁に三人の怪物のように大きな陰がゆらゆらと動いている。
部屋の四隅に椅子を置いて、それぞれ好きに座った。
私は持っていたリュックを妻にポイと投げると、隣の空いている椅子にすかさず座る。
妻はリュックを急いで娘に渡して、あいている椅子に急ぐ。
単純な作業の繰り返しだが結構やっていると楽しくなるもので、われ先にと次の人に手渡すスリルがある。
やはり疲れには勝てないのか、意識は殆ど働かず決められた作業をこなすロボットのように、勝手に体だけが動いていた。
投げては移り、移っては投げる・・・何度繰り返したのか・・・。
ある時とても変に思ったことがある。
自分の番になり椅子を移ろうとしたときだった。
椅子は四隅にそれぞれ一脚ずつ置いてあって、必ず一つだけは残っているはず。
しかしいつも四隅の椅子に人が座っているのだ。
私たちは三人だったはず・・・。
・・・おわり・・・
<あとがき>
ちょうどオヤジが高校生の時に、夜AMラジオを聴いていた頃のことだった。
その頃は、「ビバ~ヤング~パヤパヤ~」というしゃがれた声で、笑福亭鶴光さんのオールナイト日本を放送していたんだけど、君は知ってるかな?!(間違ってるかな...?違う番組?記憶が...)
その番組のことではないのだが(がくっ)、同じ頃夜中の12時ころだったかなあ...「夜のドラマハウス」という、女の人の声のあと、「パッパラッパパ~パヤパ~・・・」という、妙に澄んだラッパの音で始まる番組があったんだよね。(また鶴光かと思った)
夜中なので、けっこう怖い話しが多かったなあ...(ブルッ)
しかも真っ暗な部屋の中でベッドに横になって聴くラジオって、とっても別世界に自分を置く様な感じで、なんとも言えない時間と空間だったように思う。
その日も、楽しみにしていたあのラッパの音で始まった"夜のドラマハウス"。
それから5年後、あの日に聴いた内容を思い出して脚色して書いたのがこの作品なんだ。
だから、純粋な自分の創作ではないんだよね~。
この話しを聴き終わった後、ボクジン少年は一人でトイレに行けなかったのを覚えてる...(-_-;)
弟をたたき起こしてトイレに行ったなあ (゜o゜)
これも懐かしい思い出。
じゃまた

